InnoSenT Application Note Ⅰ – 1

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1 はじめに

1.1 概要

レーダー技術は、移動体および静止体の検出用途において、ますます広く使用されるようになってきています。その一方で、レーダー技術は「優れているが高価である」という従来のイメージを払拭しつつあります。これは、レーダーセンサが現在では大量生産されており、魅力的な価格で供給されているためです。

本アプリケーションノートは、この技術への入門を容易にし、本システムの設計における基礎的理解を提供するとともに、適切なレーダーソリューションに迅速に到達できるように読み手を導くことを目的としています。

「RADAR」という単語は  RAdio Detection And Ranging(電波探知測距)の略であり、物体を検出するだけでなく、同時にある種の物体パラメータの評価を意味します。当初は主に防衛用途から始まったこの技術も、現在では多様な商用および産業用途に拡大しています。

タスク要件は、以下のように定義されます:

  • 一般的に物体の有無の検知、言い換えれば、その存在を確認する。
  • 静止物体に対しては、その瞬時位置(距離、角度)を計測する。
  • 移動体に対しては、その運動(速度、進行方向)を評価・測定し、継続的に変化する位置を時系列で追跡する。

多くの理由から、高周波帯を使用した電磁波、いわゆるマイクロ波(MICROWAVES)の採用はアプリケーション設計に対して非常に有意なアプローチを提供します。その理由としては:

  • 検出対象とされる物体(人、動物、車両、機械部品、構造物やシートなど)はいずれもある程度の機械的な構造を有しており、レーダー波の波長はそれらの機械的寸法に対し十分に短いため十分な検知特性を確保できる
  • 上記の周波数帯域は、放射ビーム特性(指向性)として設計されたアンテナ構成に非常に適しており、物体を高精度に位置特定することができること

1.2 レーダー周波数範囲および規制

レーダー技術においては、密度が非常に高い電磁スペクトルの範囲内に、無秩序に電磁エネルギーが放射される事を防ぐため、各国は法的に周波数帯の割り当てを行っています。

現在、ドイツにおいて許可されている周波数帯や、特に割当帯域幅の状況は随時法改正などが実施されています。CEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)などの国際的勧告に加え、たとえばドイツではマインツに所在するRegTP(※現在のBundesnetzagentur)により国内の使用について規則されています。

編者注)

原文においては2000年当時のドイツにおける周波数割り当てが紹介されています。

ドイツ国内における周波数割り当て

さらに、77 GHz帯は、自動車用途向けとしてヨーロッパおよび米国のほぼ全域で予約されています。

周波数および帯域以外にも、送信出力が規制対象となります。最大放射ピーク電力は以下の通りです:

  • 10GHz以上の周波数:最大100mW または+20dBm
  • 10GHz未満の周波数:最大25mW または+14dBm

mW →dBm換算式:

P [dBm] = 10 log P [mW]

ここで重要なのは、ピークパワー(最大値)が規制対象となる規格値である点です。

いわゆる EIRP(等価等指向性放射電力)として定義されています。(編者注:日本ではPower of Transmission= 給電点電力値)

EIRPとは?

EIRP(Equivalent Isotropic Radiated Power)は、理想的な無指向性(等方性)アンテナが放射電力との相対値として測定される、系全体の放射電力を意味します。

つまり、送信機のアンテナ端子で得られる最大出力に使用するアンテナの空中線利得(アンテナゲイン)も含んだ電力値です。

例:
送信機がアンテナ端で 5mW(+7dBm)の出力を持ちアンテナ利得が13dBの時、EIRP=20dBmとなる。(+7dBm+13dB =+20dBm) これがEIRP規制の上限(+20dBm)となりそれをを超えてはいけません。

ピークパワーに関して:

私たちの生活では通常、最大出力が求められる場面は多くありますが、マイクロ波電力の送信においては話が異なります。

一般に設計者、製造メーカーとしては電波的に最大限有利な法解釈により「攻め」たくなるものですが、認証機関はあくまで法規に則って証明行為を行います。この場合は平均出力ではなくピーク出力を重視します。

例えば、電力値を低く見せるために送信機をパルス動作させたとしても、それでごまかすことは出来ないという事です。証明員は送信機がパルス動作可能かどうかをまず確認しますし、その「デューティサイクル」(ON/OFF比率)を申請値として明確化させ、この値を基に送信ピーク出力を試験します。これらについても現時点ではヨーロッパ全体または世界的な統一規則が存在するわけではないことはご理解下さい。

たとえば英国では、24 GHz帯は24.150~24.250 GHzに制限されています。また、米国および日本では認可された送信出力に対し異なる基準が採用されています。

また米国(FCC)では「電界強度(V/m)」によって測定される一方、欧州(RED)では出力電力(EIRP)で規格します。

したがって、製品の企画、設計・製造する機器メーカーは、仕向け国ごとの規制条件を的確に把握しておく必要があります。

実際、2.4GHz帯および24 GHz帯 は(日本を除き)世界的にISM用周波数帯として割り当てられています。

しかし、2.4GHz帯は今後、電子レンジやBluetoothなど他の通信機器により混雑する可能性が高く、また波長が比較的長いため(12cm)、指向性アンテナの設計自由度も制限されます。

これに対し、24GHz帯は:

  • 小型アンテナ構成が可能
  • より高いEIRPが許容される

といった利点により魅力的ですが、逆に 2.4GHzに比べて波長依存の特性上伝搬特性が劣る点はご留意すべきです。

欧州における認証について:

例えば製品のモデルごとに認証費用が発生しないようにするた、汎用認証(generic certification)を取得することが望まれます。

ドイツで認証を取得した場合は、他のヨーロッパ諸国や北米、カナダ、日本などにおける認証プロセスの簡略化に貢献します。

InnoSenT社は、標準製品はもちろん、カスタム製品に対しても、認証取得と必要書類の作成における豊富な経験を有しており、相当数のモデルが対応していますので、安心して使用頂く事が可能です。

1.3 他技術との比較におけるレーダー技術

レーダー技術と競合する他の技術アプローチとして、赤外線(IR)および超音波(Ultrasound)などの技術が挙げられます。

赤外線センサは主に側方あるいは接線方向の運動を検出することに特化しており、これは物体の温度分布が変化することに起因します。一方で、センサに対して直進方向(正面・背後)からの運動には比較的鈍感です。

対してレーダーセンサは、直交運動には反応が鈍い一方、半径方向の運動には極めて鋭敏です。

超音波技術は、短距離(1.5 m未満)に限定されます。また環境変化(温度、騒音、風など)に敏感です。また、超音波トランスデューサは(スピーカーやマイクと同じで)空気と接触している必要があるため、隠蔽による設置が困難です。(画像系も同様)

以下の表は、各技術に基づくエネルギーの生成および伝搬メカニズムに起因する利点と欠点を比較したものです:

技術 利点 欠点
赤外線センサ 直交および接線方向の運動を良好に検出 半径方向の運動には反応が弱い
広い水平・垂直検出角度 雨、風、粉塵、急激な温度変化等の環境変化に敏感
簡易製品では低価格 レドームが高価・設置が目立つ
速度、方向、距離の情報が取得できない
超音波センサ 非常に安価 検出範囲が極めて近距離に限定される(<1 m)
三角測量可能 雨、風、粉塵、急激な温度変化等の環境変化に敏感
近距離での距離測定が精密 センサが常に露出
速度・方向情報の取得不可
レーダーセンサ 半径方向運動の検出に優れる 直交運動の検出に不得手
環境変化に比較的強い 直交方向や接線方向の運動は、検出が困難または不可能である
非金属材料を透過 赤外線や超音波より高価
レドームが安価・設計自由度高い 電波放射への一般ユーザの先入観
アンテナパターン設計の自由度が非常に高い
移動方向の識別
距離の測定及び/又はおおよその距離分類

この比較からも明らかなように、レーダー技術はフロントエンド部そのもののコストが若干高いものの、機能面で優位性があり、トータルのコストや運用ストレスの低減に大きな利点を有しています。

2025/11/20   Radar White Page, おすすめ記事    , , , , , , , , , , , , , , ,